<はじめに~キャスト技法とは?鍛造技法とは?>
・キャスト技法とは
「キャスト技法」とは、現在のジュエリーづくりはほとんどがこの技法で作られていると言えるほど、普及した主流となる技法で、
、ワックスで作られたリングの原型の型をとり、その型に溶かした金属を流し込むことで原型と同じ金属のリングができあがるという方法です。
型をとるときに、ワックスの原型を型ごと焼き上げて、溶かし出すことから<ロストワックス>とも呼ばれます。
一番イメージしやすい事例としては、バレンタインなどでチョコを手作りするあの方法のイメージです。
溶かしたチョコを、アルミの型枠やチョコのカタチをかたどったゴムの型に流し込んで固めると色々なカタチのチョコが出来上がる。
あのつくり方のイメージです。
あるいは冷凍庫で、製氷皿に水を入れて凍らせるとくぼみの通りのカタチの氷ができますよね?
同じように、
溶かした金属を、耐熱性の型に流し込み、冷やしてから型から出して磨き上げ、宝石を留めるなどして仕上げるのが「キャスト技法」です。
結婚指輪の大半はこの「キャスト技法」で作られています。
キャスト=日本では「鋳造(ちゅうぞう)」と言います。
・鍛造(たんぞう)技法とは
「鍛造(たんぞう)技法」とは、
金属の塊を叩いて、引き伸ばし、リング状にしてヤスリなどの工具を使って、切ったり削ったり、またハンマーで叩きながら整形したりして、リングを形にして行く技法です。
ではこの二つの技法について、詳しくお伝えして行きますね。
<キャスト技法について>
・量産に対応~型が作れる
ジュエリーの場合、キャスト技法の原型はワックスで作られます。
ワックスは金属と違い溶ける温度が低いので、<ゴム型>と言われる、シリコンゴムの型でどんどんコピーを作ることが出来ます。
これを一度に、専用の石こうで型をとり、溶かした金属を流し込んだら、同じ型から沢山の完成品を製造できるのです。
なので、「キャスト技法」は量産に向いている製法と言えます。
・比較的にコストが安くたくさん作れる
「安く」とは、あくまで鍛造で金属の塊から職人が切ったり削ったりして同じデザインのリングを作る場合に「比較的に安い場合が多い」ということです。
リングの製作のプロセスは、
【①整形】
素材を工具で、望みのカタチにする。
【②研磨】
整形した後の、切ったり削ったりした跡が無くなるまで磨く。
【③仕上げ】
宝石をとめたり、刻印を入れたりする。
大まかにいうとこんな感じですが、キャスト技法は、「型」を使えるので、
【①整形】素材を工具で、望みのカタチにする。
⇒このプロセスを省くことが出来ますから、その分価格をおさえることが出来ます。
・だからといって「安物」ではない
ここだけを見ると
・キャスト=量産⇒低価格品
・鍛造=手がかかる⇒高級品
という印象を持たれた方も、いらっしゃるかも知れませんが、
そんなことはありません。
「キャスト」「鍛造」は技法の区別です。
それぞれに、それぞれのメリット、デメリットがあり、どちらかが上で、どちらかが
下ということは無く、どちらにも優れた強みと、弱点があり、目的に応じて使い分ける必要があるということです。
例えばカルチェやティファニーなど、高額なナショナルブランドもほとんどの製品がキャストで製造されていることを見れば、どちらかが上で優秀という事でないのは、ご理解いただけると思います。
・とても細かい表現が可能
キャストの特徴は、原型を加工しやすい<ワックス>で製作するため、細かいデザインを追求する作業がやりやすいことです。
例えば、柔らかい粘土状のワックスを使用したら、指先の指紋を型どりして金属に置き換えることが出来るほど。
・キャストの特性を活かしたデザイン
キャストの特性を活かしたデザインは色々と考えられますが、例えば柔らかさや熱で溶かしながら整形出来る事を活かしたデザインがあげられます。
~私たちがキャスト技法で製作した人気モデル<アース>
~私たちがキャスト技法で製作した人気モデル<WASHI / 和紙柄マリッジ>
また、つまようじでも削れるぐらいの硬さのワックスを彫刻したり、粘土状のワックスを使うと、硬い金属ではとても作れないか、作れてもとんでもなく時間がかかる動物の顔など繊細なデザインも、技術さえあれば鍛造より容易に時間をかけず完成させることが出来ます。
大きいサイズのジュエリーでも、中をモナカの皮のようにくりぬいてから、貼り合わせて軽く仕上げることも、簡単に溶かせばくっつくワックスならではの強みで、無垢から削ることを思えばキャスト製法の方が圧倒的に作りやすいですよね。
<鍛造技法について>
・リング作りはもともと多くはこの技法が使われていた。
キャスト技法が今ほど普及する前は、多くのジュエリーは、
この<鍛造技法>
つまり、プラチナやゴールドを切ったり、叩いたり、引き延ばしたりしてから削ってカタチをつくり、磨くという方法で作られていました。
・量産に向かない、型が無い
鍛造技法は、型で複製が出来るキャストと違い、一回一回地金を手作業でゼロから整形するため量産には手間がかかり過ぎて向きません。
・価格高め
地金の成型から、磨きなどの仕上げまで、全工程が手作業になるためコストがかかり、価格はどうしても高めになります。
・一点ものに向く、というか、一点ものになる。
毎回ゼロから手作業で仕上げるため製品に一点物としての価値が生まれやすい。
・鍛造の特性を活かしたデザインとは
工具で直接地金を削り、カタチを整えて行くためエッジやカーブをぴしっと仕上げる事が出来ます。
・キャスト技法のメリットとデメリット
<メリット>
最大のメリットは、「デザインの自由度が高い」
上記のように、柔らかいワックスで原型をつくり型を取るので、そのままゴールドなどに置き換えることができる技法なので、基本的にワックスで製作出来るカタチならなんでも製作可能です。
デザインに関してほとんど制約が無く、イメージどうりに仕上げることが出来ます。
<デメリット>
・鍛造より素材の硬さ、強度が低い
鍛造の場合は、プラチナなどの素材を溶かして固まった状態から、叩いたりして整形することで、
<加工硬化>といって、金属が硬く引き締まり強度を増すことが出来ます。
キャストは冷えて固まったままの状態で製品になりますので、加工硬化が無い分、強度・硬さには劣ります。
・型を使用するので、エッジやラインが甘くなりがち。
きめの細かい専用の石こうで型を取るのですが、それでも出来たリングは、キャスト技法独特のざらつきや、「ス」という小さいくぼみが出ることがあり、磨きの工程を注意深くしないとエッジやカーブなどが甘くダレた感じになってしまいます。
・鍛造技法のメリットとデメリット
<メリット>
・キャストより素材の硬さ、強度が高い
叩く、伸ばすの工程で、圧力などで金属が硬く引き締まり、強度・硬度が高く丈夫な製品に仕上がります。
・ぴしっとしたラインや、エッジが出しやすい。
キャストの場合、仕上げを注意深くしないと、せっかく綺麗にしあがったシャープなラインが表面のキャスト独特のざらつきを磨いていくうちに丸くダレた感じになってしまう場合があります。
その点鍛造では、やすりなどでシャープなエッジを硬い金属の面に削り出しますので、ぴしっとした直角やエッジの利いたデザインも美しい仕上がりが期待できます。
<デメリット>
・デザインの自由度に制限がある
金属を工具で削ってつくりますから、工具が入らないような複雑なディテールがあるデザインは苦手な技法と言えるでしょう。
ドラゴンや虎のような具象的な細かく複雑なデザインなら、金属を削るより柔らかいワックスで原型を作れるキャストの方がはるかに効率よく近道です。
・キャスト向きの素材と、鍛造向きの素材
各種プラチナ、金は、キャスト、鍛造、両方に対応可能ですが、
最近金属アレルギー対策の素材として注目度があがっている
・チタン
・ジルコニウム
・タンタル
・ハフニウム
などは、
融点が非常に高く、型が耐えられないため
ほぼキャストに対応出来ません。
そのため鍛造技法での製作が一択となります。
まとめ
・どちらの技法にも優れている点、苦手なデザインがあり、適材適所で使い分けるのがポイント!
・強度でまさるのが鍛造技法、ち密なデザインの再現性ならキャスト技法
・レアメタル系素材の製作は、融点が高すぎてキャスト技法は苦手。
鍛造技法での製造になる。